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お別れのことば(母にあてた手紙)

 
10年前の2010年11月18日。
母の告別式で読み上げた「お別れのことば」をご紹介させていただきます。
 
お通夜の喪主挨拶で、父は母の病気についてまったくふれませんでした。
 
肝心なことを言わない父を心の中で責めながら問いただすと、病気のことは隣近所にふせておいてほしいとお母さんが言っていたから、と言いました。今思えば、母を想ってのことだったのでしょう。
 
でも、それが一番大切なことなんじゃないか、と思いました。妹たちも同じ思いでした。
 
それからわたしは、告別式で読み上げる「お別れのことば」を一晩かけて書きました。母が病気となって過ごしていた1年余りの日々を母とつながりのある人に伝えたい。そう思ったのです。
 
お別れのことばを読み上げたわたしに、どこかに発表したほうがいい、と伯父が涙しながら言ってくれました。新聞社のデスクだった伯父に想いが伝わったことが嬉しかったのを覚えています。その伯父も3年前に亡くなりました。
 
「お別れのことば」は、母に宛てたわたしからの手紙となりました。
  
 
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長女の由紀乃と申します。
本日はお忙しい中、お集まりいただきまして心より感謝いたします。
三姉妹を代表して、お別れのことばを述べさせていただきます。
 
 
母は2009年の暮れに体調を崩し、2010年の初めに進行性の胃ガンであることがわかりました。
 
 
「余命は3ヵ月。桜に間に合うかどうかわかりません。」
 
 
担当の先生から告知を受けたとき、頭を何かで殴られたような衝撃を受け、三女が身ごもっている二人目の孫が生まれる6月に母は生きていないのかと絶望し、わたしの頭の中に「まるいわっか」がつらなる絵が浮かんできました。
 
 
「家族はわっかなんだ。わっかがつらなっているのが家族なんだ。
 欠けるわっかもあれば、ふえるわっかもあるんだ」
 
 
それまで気にとめることもなかった家族のつながりをあらためて思い知らされました。
 
 
胃ガンであることは母にも告知されました。
 
 
前向きな母はガンを敵対視するようなことはなく、あるがままを受け入れ、入院中は国会中継を見たり、漢字や計算のドリルをして、先生が驚くほどでした。
 
 
毎月約一週間、抗ガン剤治療のために入院し、それ以外の期間は自宅で過ごし、外出先は決まって大好きなディズニーランド、ディズニーシーでした。
 
 
ターニングポイントだった桜の季節が過ぎ、6月には三女が無事出産し、二人目の孫に会うことができました。
 
 
二人の孫たちの笑顔に癒されながら、母は自分が胃ガンであることを忘れてしまっているかのように日常を過ごし、入院生活さえも楽しんでいました。
 
 
若い看護士さんに「やこりん」というニックネームで呼ばれ、恋の悩みを打ち明けられたり、違う病棟に異動になった先生がおしゃべりにきたり、お見舞客の来ないお隣の方を気づかい、お花やお菓子をプレゼントしたり、孫を抱かせたり、いつも母のベッドはにぎやかでした。
 
 
そんな母を見ていると、わたしたちものんびりしてしまい、夏が終わる頃、先生に「油断は禁物ですよ」と言われたほどでした。
 
 
9月24日、68歳の誕生日をディズニーシーで迎えたのを機に、母の体力が少しずつ落ちはじめ、入院すると日中も眠っていることが多くなり、「空が見たい」と言いながら、空が見える場所に頭の位置をずらし、まどろむようになりました。
 
 
誕生日から1ヵ月後の10月23日に退院し、先生には「自宅に帰れるラストチャンス」と言われていました。
 
 
退院する日の朝、「誕生日からちょうど1ヵ月だよ。もう10月も終わりだね」と話していると、母は「生きのびた!」と言って、ガッツポーズをしました。
 
 
それまでわたしたちには、そんなそぶりは見せませんでしたが、母なりに不安な毎日を送っていたことに気づかされました。
 
 
退院してから、日に日にやせ細る母を見て、わたしたちも覚悟を決めざるを得ませんでした。
 
 
少しでも長く一緒にいられ、孫たちが元気に遊んでいる姿が見られる自室で最後を看取ることに決めました。
 
 
退院から3週間たった11月14日、家族全員が見守るなか、母は眠るように息を引き取りました。
 
 
「ありがとう」と呼びかけるとかすかにうなずき、目からは一粒の涙がこぼれました。
 
 
母が亡くなった11月14日は、次女の誕生日でした。
三姉妹の中でも一番楽天的な次女に母の思いは引き継がれたのだと思います。
 
 
母の前向きな姿勢が余命3ヵ月をくつがえし、わたしたちに濃密な時間を与えてくれました。
 
 
母と向き合うことができたこの10ヵ月、いろいろなことを母は教えてくれました。
 
 
☆新しいわっかが次々に増え、命はリレーのバトンのようにつながっていくこと。
 
 
☆ありがとうと感謝の気持ちを忘れずに、常に笑顔でいること。
 
 
☆ひとつひとつの出会いを大切にすること。
 昨晩のお通夜に80名もの方々にご会葬いただき、人と人との出会いもわっかなんだとあらためて思いました。どうもありがとうございました。
 
 
☆限られた人生だからこそ、そのときそのときを大切に生きること。
 
 
母から同じバトンを受け取ったわたしたちは、母から教わった多くのことを忘れずに毎日を生きていきます。
 
 
お母さん、たくさんのありがとうととびきりの笑顔をいつもありがとう。
またディズニーシーに行こうね!
 
 
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今日も、10年前と同じように青い空がどこまでも広がっています。
お読みいただきましてどうもありがとうございます。